グローカルコラム 73

贅沢な生活

贅沢三昧(ぜいたくざんまい)な生活ができたら、と思ったことはありませんか?「でもそんな金はないし」とか「贅沢は敵」などと考えてまっている人は多いと思います。ぜいたくするのにお金はほとんど必要ありませんし、「贅沢は敵」などではない、ということが今回のテーマです。贅沢な生活といって「大きな家に住んで、高級車に乗り、食事は高級レストラン、旅行はファーストクラスと高級ホテル」こういうことを想像するのであれば、お金は必要になりますが、実はそんなものは本当の贅沢ではありません。

「星の王子さま」で有名なサン・テグジュペリの言葉に、こうあります。

 

本当のぜいたくというものは、一つしかない。それは人間関係というぜいたくだ

 

人間関係を深めることが「本当のぜいたく」であると述べているわけです。現代は「精神が孤立化した時代」など言われます。お金持であっても精神的に孤独な人であれば、さびしいものです。その意味では、本当にぜいたくを満喫している人は少ないのかもしれません。

仕事で成功をおさめ、まさに「大きな家に住んで、高級車も別荘も持ち、飛行機はビジネスクラス」といった生活を送る人にこう聞いたことがあります。

「休みの日は何をしているんですか?」自他ともに認めるゴルフ好きの方でしたから、「友人とゴルフ」といったような答えを予想したのですが、以外にも「別に何もしない。ゴロゴロしている」と言います。「とは言っても一日中ゴロゴロしているわけではないでしょうから、何かしらしますよね?」と聞きなおすと、「そうだなぁ、家族の買い物に付き合わされてデパートにいくことが多いかな」と言うので、「家族でショッピングなんてすばらしいじゃないですか」と言うと、「何言ってんだよ!車だして、金払わされるだけなんだから、すばらしいことあるかい」と言います。さらに私は「他には? ゴルフがお好きですから、気のあう友人達とゴルフに行ったりされるんですよね?」と尋ねました。以下はその方(仮にKさんとします)とのやり取りです。

K「ゴルフは仕事(接待)でしかやらないし、やりたくもない。それに気のあう友達なんていないよ。仕事以外の人間関係には興味がないから」

私「家族旅行とかは行かないんですか?」

K「行かないよ。家族と行ってもつまんないだろう」

私「つまんないって・・・、仕事の疲れを癒すには家族との団らんが・・・」

K「家族団らん? 時々、家族で食事くらいには行くけど、会話だってほとんどないしなぁ・・・」 

私「じゃあ、何をしているときが一番楽しい、というか充実しているんですか?」その方は、しばらく考えた後、「犬を散歩に連れて行くときかなぁ・・・」と言います。「人間関係はくたびれるよ。犬といる時だけがリラックスできるよ」と付け加えます。

自称ゴルフ好きのKさんが、プライベートでゴルフなどやりたくもない、と言うのも驚きだったのですが、家族団らんの時間、というよりコミュニケーションすらまともにとれていないと感じ衝撃をうけました。この方は、成功した中小企業主の典型のような人で、一代で数十億単位の資産を築きましたが、親しい友人はいないし、家族とも必要最低限の会話しかしていないのです。この方の口癖は「仕事は人間関係だ」というものです。彼のいう人間関係は「お客さんの機嫌取り」です。実際に、すさまじいまでにお客に気をつかいますし、金もつかいます。でも、その相手が取引先を辞めたり、定年したりして業務に関係なくなるとバッタリと関係が切れます。こんなものはサン・テグジュペリの言う人間関係などではなく単なる利害関係です。ご本人は「人間関係を大事にしている」と言いますが、まさに「カネの切れ目が縁の切れ目」ということです。この方のように、大きな家や高級車を持っていても、私には決して羨ましいとは思えなかったものです。羨ましいどころか、見た目はぜいたくでも、本当のぜいたくを知らない可哀相な人生というしかありません。皆さんはいかがでしょう? Kさんを羨ましいと思えるでしょうか?

一方で、決して裕福な暮らしぶりとはいえないが、良き人間関係に恵まれている人も知っています。家族間や友人達と「心を開いたコミュニケーション」を通じて充実した人間関係を維持している人です。サン・テグジュペリに言わせれば、こちらのほうが「本当のぜいたく」をしているわけです。ところが、ほとんどの人が前者(Kさん)の人生を「ぜいたく」だと思いこみ、そのためにおカネが必要だと思っているのです。家族や友人達と「心を開いたコミュニケーション」つまり「ハラを割って話す」ことには、カネなど必要ないにもかかわらずです。でも、今の世の中「ハラを割って話す」ことに抵抗を感じる場合が多いのも事実です。真面目な話や真剣な話題に対して「堅い話は・・・」といったような空気が流れます。かといって「堅い話」を抜きにして「心を開いたコミュニケーション」は成立しえません。

最近の若者には、「群れたがりの傾向」があるそうです。そこには「堅い話は抜き」で飲み会や遊びに一緒に繰り出すことが「仲間との連帯」であり「人間関係」であるという幻想が存在します。「心を開いたコミュニケーション」でなく、たわいのない会話(メール交信も含めて)だけで繰り返される関係を「人間関係」と勘違いして、とにかく群れたがるのだそうです。そうして、友達が笑えばおかしくなくとも自分も笑う、皆でスポーツ観戦に行けば興味はなくとも喚声をあげて応援する、それが人間関係であり友情であるといった間違った認識を持っているのです。これでは、まわりにあわせて自分を演じているにすぎないのですが、不幸にもこのような「自分を抑えた状態」を人間関係だとか友情だとかと勘違いしてしまっているのです。そういう人は、一人になると深い孤独感や疎外感を感じてストレスとなり心の負担を感じるそうです。それがエスカレートして心の病に発展する場合もあるようです。友人はいっぱいいるのに、ホンネで語り合える相手はいない。そして、一人になると孤独を感じる、というのであれば「群れたがり」に違いありません。

Kさんのような利害関係でも、「群れたがり」であっても、本当の意味での「ぜいたくな生活」を送ることはできません。

なぜ、こういう話をするかというと、一人でも多くの人に本当の意味での「ぜいたくな人生」の意味を問い直してもらいたいと思うからです。

「お金があれば幸せ」という考え方はとても浅薄な幸福感だと、私は思うのですが、最新の心理学の研究もそのように結論づけているのです。

マーティン・セリグマン博士という人がいます。アメリカ心理学会の会長も務め「フロイト以来の革命的理論家」と称される著名な心理学者です。日本でも数冊の著作が翻訳されており、中でも「オプティミストはなぜ成功するか」(講談社)という本はベストセラーになっています。

このセリグマン博士の研究によると、人間が充実感を得る体験は大きく三つに分類されるとします。

一つ目が「快楽的な生き方」。二つ目は「他者とのかかわりのなかで、自らのよき人格を発揮していくこと」。三つ目に「自分を超えた大いなる価値や目的のために自らの力を用い、貢献していくこと」。

そして、真の充実感をもたらすものは、一つ目の「快楽的な満足」よりも、二つ目・三つ目の「深い精神的な充実」であるとしています。言うまでもないでしょうが、一つ目の「快楽的な満足」とは資産の量、社会的な地位といったものです。あるいは「欲しい物が手に入る満足」と言い換えてもいいでしょう。二つ目が「サン・テグジュペリの言う人間関係」に違いありません。(三つ目の解説は別の機会に譲ります)「深い精神的な充実感」「本当の満足感」はカネでは買えないということです。「幸せはカネで買える」と思い込んでいる人には納得できないかもしれません。そうであればセリグマン博士の著作「世界で一つだけの幸せ−ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生」(アスペクト)を読んでみることをお勧めします。

それでは「本当の満足感」を得るにはどうしたら良いのでしょう? あるいは「本当のぜいたくな人生」を送るにはどうしたら良いのでしょう? 実は、簡単なことです。「本当の人間関係」である「心を開いたコミュニケーション」を心がければいいのです。家族や友人に、自分の悩み、自分の夢、将来のこと、政治・宗教・歴史など、世間でいう「カタイ話」をホンネでぶつけてみるのです。そうすれば相手もホンネをぶつけてきてくれるのではないでしょうか。すると「心を開いたコミュニケーション」が成り立つようになるはずです。とは言っても、口で言うのは簡単ですが、実行しようするにはためらいや気恥ずかしさもあるでしょう。相手から「あっ、そう」と軽くあしらわれることもあるでしょう。だから、「本当の満足感」を得るには、「お金」ではなく「勇気」が必要なのだと思います。勇気をふるえば、「自分のホンネを受け止めてくれる人」に、「心から信頼できる人」に、いずれ巡り合うことができはずです。私自身の経験から言っても、ホンネで語り合えたとき、心から信頼できる人にめぐり合えたときの満足感は何物にも代えがたい価値を感じました。収入が増えた、相場で儲かった、あるいはその儲かった金で豪遊した、などという次元の満足とは比較にならない充実感を感じることができました。

ただ、勇気と非常識を混同しないで下さい。会社の宴会でマイクを握って「私の夢は・・・」などと語り始めたら、「アイツはおかしい」と思われ、取り押さえられるだけでしょう。(もしかしたら、ヒーローになれるかもしれませんが)それに、すべての知人とホンネで語り合える関係になる必要もないでしょう。少人数であっても、あるいは、たった一人の友人であっても、信頼して心を開いて語り合える人がいればそれで十分だと思います。勇気を奮い起こして「心を開いたコミュニケーション」を心がけてみてください。そして「本当の贅沢三昧」を味わってみてください。


(次回へつづく)

                              (2005年3月10日)



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