グローカルコラム 80

医療保険に入るべきなのか?

私はこのコラムや著作でも述べている通り、(民間の)生命保険にも医療保険にも加入しておりませんし、その必要もないと思っておりましたが、自分自身が病気になって入院費や治療費などを払う現実に直面し、その判断が適切だったのうかどうかを検証する機会を得ました。結論的には、少なくとも私にとっては「やっぱり医療保険は必要なかった」ということなのですが、必要と思われるケースも多いな、との印象も持ちました。今回は、私が実際に支払った医療費を基に具体的な説明をおこないます。

まず、私が加入している社会保険は、国民健康保険(以下、「国保」)のみです。なので、自己負担は多くの人と同じく、3割となります。ただし、3割負担であっても、国保では入院中の食事代、個室に入った場合などの差額ベッド代、そして、「高度先進医療費」は全額自己負担となります。私の場合、手術日の翌日まで集中治療室にいた他は、入院中はずっと相部屋でしたので、差額ベッド代はかかりませんでした。ただし、手術の際、ニューロナビゲーションシステムという脳外科手術の最先端機械を使用しましたので、13万円ほどが「高度先進医療費」として全額自己負担でした。これは、脳と腫瘍の境界線(切り取り線)を自動車のナビゲーションのように正確に示してくれるという先進医療機器です。

支払った医療機関は、大田区内にある大学病院で、一ヶ月単位での請求・支払いとなります。まず、3月度は下旬からの入院だったこともあり、支払額は37,640円です。4月は、895,890円を支払いました。手術をおこないましたので、それなりの額はかかるだろうとは思いましたが、予想以上に多い額でビックリしました。5月と6月はそれぞれ、257,370円と385,820円でした。合計すると、1,576,720円となります。これが、私の脳腫瘍による入院と手術にかかった費用です。あくまで、実際に支払った3割負担の額です。ただし、「高額療養費支給制度」により、申請後、以下の金額が国保より支給されました。

 

年・月

実際に支払った額

高額療養費支給を受けた額

2006年・3月

37,640

0

2006年・4月

895,890

714,246

2006年・5月

257,370

208,707

2006年・6月

385,820

335,076

合計

1,576,720

1,258,029

 

支払額と、支給額との差額は318,691円ですから、これが入院と手術にかかった実費です。注意が必要なのは、高額療養費の支給額は所得(住民税の額)によって違いがでてきます。私の場合、かなり所得が低いので32万程度の負担ですみましたが、多くの人はこれ以上の負担となるでしょう。とは言っても、私の手術費や治療費は高額で、入院日数も長かったですから、ほとんどの人にとって、30万円ほどの実費負担を想定しておけば十分だと思います。

すると30万円を「いざという時のために取っておきさえすれば医療保険は不要だ」という結論になるのです。例えば、今40歳の人が医療保険への加入を検討しているとします。一般的な保障のもので、保険料は月8000円です。(保険会社のホームページなどで概算保険料が算出できます)この8,000円を保険に入ったと思って、自分で積み立てていけば、約3年で30万円になります。絶対に3年以内に病気になる自信(確信)があるのでなければ、この人は医療保険に加入するのでなく、自分で積み立てていくほうがはるかに有利です。この辺のところは、著作の78〜79ページにも書いてありますので、参考にしてみてください。こうして、いろいろと計算してみると、やっぱり「医療保険なんか必要ないじゃないか」という結論になるのですが、いかがなものでしょう。

ただし、医療保険のメリットもあります。まず、毎月8000円なりをきちんと保険の代わりとして積み立てていかねばなりませんが、使ってしまわずにそれができるかどうか。また、30万円ほどが貯まって以降、それを「万が一の際の医療用の資金」としてとっておけるかどうかが問題になります。どうしても、自分の口座で管理してしまうと、「旅行に行こう」「新しい電化製品でも買おう」などということになりがちです。こういう自己管理が苦手な人であれば、保険を利用した方が賢明かもしれません。

もう一点忘れてはいけないのは、保険の「安心料」としての側面です。実際には、かなり無駄(損)であっても、安心感を持つことができるのは事実です。相部屋でしたので、他の患者さん達とも話す機会は多かったですが、入院して費用面の心配をする人は多く、医療保険に加入していた人などは「あ〜、本当に「○○生命の医療保険、加入しておいて良かったなぁー」などという会話はよく聞かれました。ちなみに、私が入院中に同室に来たある方は、十年以上もの間、毎月1万円程の保険料を支払って日額1万円が支払われる医療保険に加入していたそうで、「医療保険、加入しておいて良かったぁー」と常々語っておられましたが、この方は軽い脳卒中で、手術もせず一週間で退院されていかれました。ちょっと計算してみれば分かることですが、月額1万円を10年間支払えば総額120万円になります。でも、この方に今回支払われるであろう保険金は4万円程度でしょう。(通常、入院は3日目以降からが対象になります。仮に即日からの対象であっても7万円です。)120万円を支払い、10年後に数万円を受け取る。確率的にもほとんどの被保険者がこの方と同じようなものです。保険会社にとっては、120万円を受け取り、10年後に数万円を支払えばいいというボロ儲け商売です。だから、医療保険を扱う保険会社は、テレビCMはもちろん、あんなにもの広告をつかって加入獲得を狙うのです。ちなみ、先の方が、もし10年間、自分で毎月1万円を確保し、運用していれば、わずか年利1%であっても、126万円に、3%なら140万円以上になっています。数万円の治療費くらい何ともない金額に膨れ上がっていたことでしょう。それでも、「俺は医療保険加入していたから助かったぁー、良かった、良かったぁー」と言って退院していきました。この方の具体的な保険の内容は分かりませんし、もちろん、今後、この方が、健康で過ごすのか、もっと医療費が必要になってくるのかは分かりません。それでも、私にしてみれば、かなり「もったいない」話なのですが、100万円以上も失い、喜んでいるのですから、保険の魔力というか、「安心料」としての側面は否定できません。「安心」は気持ちの問題ですから、金額に代えがたい面はあります。ですので、いくら金銭的に損失があったとしても、実際に入院したときに「入ってて、良かった」と思えたならば、損失に代えがたいものなのかもしれません。

結論的には、きちっとセルフコントールができるのであれば、「やっぱり医療保険は必要ない」ということですが、貯蓄ができなかったり、貯まると使ってしまう恐れのある人は、最低限の医療保険を利用してみてもいいかもしれない、ということです。最低限というのは、例えば、私の場合だったら、実質的な自己負担は1日当たり3,400円程です。それ以外に、水・ジュースなどやテレビやインターネットの使用料もかかってきますので、5,000円以下だと思います。なので、「多く見積もっても、入院保障は1日当たり5,000円で十分だ」と思います。

入院時は絶対に個室じゃなきゃ嫌という人、あるいは病気になったときぐらい保険で一儲けしたいという人でなければ5,000円で十分です。これが最低限の意味です。

また、私の場合、退院してからも定期的な検診や「化学療法」などで医療費出費は少なくありません。なので、「入院保証は最低の日額3〜5千円で、退院後の保障もついているタイプのもの大事だな」などと思いもしました。いずれにせよ、貯蓄額、自己分析(セルフコントロールができるタイプかどうか)、健康状態、などを総合的に考えて保険選びはしないといけないということです。間違っても、セールスレディの言うがままにとか、テレビCMにのせられて決定すべき問題ではないということです。


                              (2006年10月11日)



             注意

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